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「東近江の水辺に原風景を探して」展示レポート 其の六

2015124 日更新

(農)万葉の郷ぬかづか 福井次男さんに頂いた水にまつわるお話です。

私たちが住んでいる糠塚町は、東近江市の西部地域、近江八幡市安土町と隣接する地域です。
 昔から農業が盛んで、洋ラン農家や酪農家など専業農家が5戸、兼業で水稲栽培する農家が約20戸ありました。平成9年から始まった土地改良事業では、1区画1ヘクタールの大規模ほ場となり、平成12年には兼業農家のすべて農地を集約して、農事組合法人「万葉の郷ぬかづか」として集落1農場方式で、水稲約20ha、飼料作物(トウモロコシ)約9ha、その他キャベツやスイートコーンなど出荷用野菜を約1ha栽培しています。この土地改良事業に併せて、近畿地方で初めての「米粉パン」を製造販売する加工所や、取れたて野菜、環境こだわり米を販売する直売所も整備しました。水、木、土、日が営業日となっておりますので、ぜひのぞいてみてください。

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「万葉の郷ぬかづか」の宣伝はこれくらいにしておきまして、先ほどの土地改良が始まるまでの糠塚は、小さな田んぼすみずみまでいきわたるよう水路が張り巡らされていました。愛知川ダムの水がくるまでは、地元のポンプ場で地下水を汲み上げて田んぼに入れていたので、そのきれいな冷たい水を活用して防火用水を兼ねたプールが集落の真ん中にありました。
大人が手を伸ばせば届くくらいの幅で、長さも15メートルほどでしたが小学校までは少し遠いので、夏休みの間は親が順番にプール当番をして、自由水泳をさせていました。
また子どもらが水路で「ハッパボート」の競争をしたり、スイカを冷やしたりして、地下水は糠塚の子どもらを楽しませ、大人にも潤いも与え、最後にその恵みを田んぼに注いでいました。水路だけでなく、水源の井戸には少し深い堀もあって、そこは少し危険なので子どもらが遊んでいたら注意したりしていました。

土地改良ができるまでは、その水をそれぞれの田んぼにいれるため、毎日3人体制で順番に水番をしました。水番は週に1回くらいまわってくるため、兼業農家の私たちは仕事との折り合いをつけるのがたいへんでした。また水路に藻がつくと水の流れが悪くなることや、排水路は素掘りであったため、年に2回ほど人足で出て川掘りをしていました。

糠塚の土地改良の計画では、田んぼへの給水はパイプラインでバルブを開くと水が出る仕組みとなることから、集落内にきれいな水がながれる水路がなくなるため、農家が1%ずつ農地を出し合い、約35aの農村公園(2000年糠塚ふれあい公園)を整備し、そこに小さな池をつくりました。子どもらが水遊びしたり、メダカを捕まえたりできるようにするためです。

平成18年に始まった農地水環境保全対策事業では、「集落の農地や水路は農家だけでなく集落のみんなで守りましょう」「潤いのある農村空間を創造しましょうという」というモットーで糠塚町はモデル地区に選定されました。もともとすべて「滋賀の環境こだわり米」を栽培していた糠塚町では田んぼの畔に除草剤を撒いていません。この対策ではできるだけ除草作業を減らし、畔を守っていくため「むかで芝」という芝を植えたり、公園の池に日本の在来種である「黒メダカ」を放流しました。いまでは池から流れ出る排水路の枡の部分にメダカが生息しており、子どもたちの絶好のメダカ採取場?となっています。

糠塚のたんぼの排水は、新しくできる「新中野大川」に流れています。現在蛇砂川の本川改修が国道8号線~旧中山道のあたりで行われていますが、糠塚町は土地改良の時、蛇砂川や中野大川の用地を提供しており、現在も維持管理をしております。

2年前の平成25年9月16日に台風18号が大雨を降らせました。糠塚は蛇砂川、筏川、中野大川の3本の川が集中するため、排水路や田んぼが冠水し、一部の住宅ではもう少しで床下浸水するところでした。

田んぼを耕し、米を育てるため、また集落の人々に潤いを与えるため「水」は欠かすことのできない自然の恵みですが、田んぼではバルブを開けば「きれいな水」が出てきます。先人が井戸を掘って動力ポンプを据え付け、また政策によってダムが造られ、潤沢に水が確保できるようになりました。それが当たり前になってしまって、逆に台風やゲリラ豪雨などで大水がくると「水」はやっかいものになっています。
当たり前になっている「水」の「ありがたさ」と「怖さ」を子どもたちにも伝えていきたいと思います。
    
                                         (農)万葉の郷ぬかづか  福井次男

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